全国ドクターカー協議会

ニューメキシコ大学救急部 The University of New Mexico(2024.09.30)

ニューメキシコ大学は、アメリカ合衆国ニューメキシコ州アルバカーキ(図1)に拠点を置いており、救急医学部門およびプレホスピタル(病院前)医療、厳しい環境下での医療、災害医療の部門を通じて、医師レベルのケアを病院前環境に持ち込むための救急医療対応車両を所有しています。

ニューメキシコ大学救急部 The University of New Mexico 図1:ニューメキシコ州の経済の中心であるアルバカーキ市と政治の中心(州都)であるサンタフェ市の位置関係
現在、私たちは「フライカー・モデル」を使用しており、EMS(救急医療サービス)医師が勤務中に無線を監視しながら自主的に出動するほか、現場の救急隊員からの要請に応じて現場に対応しています。これらの車両は通常、SUVやトラックモデルであり、高度な医療ケアと装備を前方展開することができ、どのような気候や天候条件下でも緊急事態、大規模イベント、災害に対応できるようになっています(図2)。

「フライカー・モデル」とは、患者搬送能力を持たない車両を用いて、医療資源や人員を迅速に現場に展開するための対応モデルで、比較的小型で機動性の高い車両を活用しています。多くの救急車は地理的なカバーエリアに戦略的に配置され、通常はステーションに駐留していますが、フライカー・モデルでは市内のどこからでも展開可能です。当施設のモデルでは、病院前医療の専任の指導医12人とフェローが、車両を自宅に持ち帰る形で、どの場所からでも戦略的に展開できるようにしており、アルバカーキ都市圏や州内のどこでも、年中無休で24時間体制の医師レベル対応が可能です。

ニューメキシコ大学救急部 The University of New Mexico 図2 ニューメキシコ大学救急部 The University of New Mexico 図3 ニューメキシコ大学救急部 The University of New Mexico 図4
私たちの車両のプラットフォームは四輪/全輪駆動であり、一般的な救命士が出来る内容を超えた、現場における薬剤を用いた迅速導入気管挿管、鎮静と鎮痛、抗不整脈薬や降圧薬などの高度な医師レベルの治療を行うための薬剤が搭載されています(図5)。また、多くの車両には薬剤を安全に保管するための小型のポータブルクーラーが装備されています。薬剤に加えて、私たちのプレホスピタル専任医師は、高度救命救急装備一式を持ち歩いており、高度な気道管理、外傷、産科および医療キットなどが含まれています。各車両には吸引装置、ポータブルの超音波装置、患者の心電図モニターや自動体外式除細動器(AED)が搭載されています。また時間的に緊急を要する、挟まれ・救助事案で、現場での四肢切断手術を行うための緊急装備も搭載されています。

ニューメキシコ大学救急部 The University of New Mexico 図5
車両には、現場の救急隊員との通信を可能にするためのVHF、UHF、700MHzの無線一式も装備されています。医師が対応する事件の種類に応じて、個々の車両に様々な装備を積んでいることもあります。その良い例として、一部の医師は、非常に過酷な環境や遠隔地での捜索救助ミッションに対応するための道具や技術的な装備を持ち歩いている一方で、他の医師は、戦術的な医療支援要素として法執行機関の作戦(例:SWAT:特殊武装及び戦術チーム)に同行し、活動をサポートするための装備を持ち歩いています。また、これらの車両では臨床研究を実施する事も可能で、新しい装備や技術についての研究を行い、患者の転帰に与える影響を理解し、病院外の環境での新しい装備、監視、医療療法の有効性や実用性を評価しています。

車両には、あらゆる天候や視認性条件に対応するための高視認性反射ベストやジャケットが装備されているほか、車両自体も高視認性反射ビニールパターンでデザインされ、LEDストロボライト、サイレン、色付きインジケーターを装備しており、一般のドライバーに接近を知らせながら緊急走行することができます。また、非常に田舎の地域に出動する多くの車両には、オフロード装備や車両を脱出させるための装備が搭載されており、車両が道路から外れたり、柔らかい砂、泥、深い雪でトラクションを失ったりした場合に、運転者が自力で車両を脱出させることが可能です。

ニューメキシコ大学救急部 The University of New Mexico 図6
これらの車両は、病院前のプロバイダーが重症患者のケアをサポートするだけでなく、病院前医療の専任医師やフェローが現場に出向いて救急隊員の活動を評価し、患者ケアに関するフィードバックや教育を提供するために設計・使用されています。また、フェローにとって、救急隊員が日常的に働く環境や要因を理解することも重要だと考えています。このように病院前の環境に出向き、展開することで、病院前フェローシップの卒業生は、患者ケアに影響を与える要因だけでなく、病院前システムの運用、リスク、質の高いケアへの障壁も理解することができるようになります。これは彼らの教育において非常に重要な部分であり、卒業後に医療機関や地域の救急隊のディレクターとして活動する際に、システム設計の多様な選択肢や対応能力を理解することに役立っています。

年間約650―750件の現場要請に対応しており、直接的な医療支援、リアルタイムのトレーニング、そして医療現場での指導を行なっています。現場到着までの時間は、呼び出しの場所や内容によって数分から数時間と大きく異なります。ほとんどの現場対応は救急通報や、多数の患者が関与する交通事故などの大規模なMCI(多数傷病者事案)が占めていますが、当チームの対応能力は非常に多様で強力です。

私たちの現場対応の運用範囲には、法執行機関や特殊作戦の戦術的支援、州全体での捜索救助活動、火災やレスキュー作業、大規模火災事案から大量傷病者事故、交通事故、患者の閉じ込め事案、自然災害対応、化学・生物・危険物・爆発物事案、そして通常の救急医療指導呼び出しなど、多岐にわたる事案が含まれています。さらに、当教員の多くは航空医療サービスのフライト医師としても活動しており、いくつかの教員は直接捜索救助や医療ケアを提供するため、州内の厳しい環境や荒野、遠隔地での患者救助にあたる航空支援ユニットとも協力しています。


Christian Mateo Garcia, MD, Assistant Professor
Tatsuya Norii, MD, Associate Professor,
University of New Mexico, School of Medicine